AWS運用のミスらない見積もり方
今やクラウドサービスの代表格である AWS は、いつでも誰でも簡単に利用できるといったイメージが少なからずあります。使い方によってはオンプレミス環境よりもコストダウンできる可能性もあります。しかし、企業で利用される場合は特に費用対効果を求められるため「なんとなく良さそう」では通りません。今回は、AWS が良いのは理解したけど、結局いくら費用がかかるのか?について少しでもヒントにしていただければ幸いです。
目次
AWS運用 〜見積時の不安〜
AWS の特徴でもある従量課金は、利用した分だけ課金されるため毎月の利用料金が変動します。年間予算を組むときに、どれだけ予算を確保するかが従来の検討方法とは異なる企業が多いため不安視されることがあります。使ってみないと利用料金が分からないと思われがちな AWS ですが、もちろん予測することができますので次の章よりひとつずつ見ていきましょう。
AWS運用 〜見積の基本 EC2 編〜
企業内で AWS を利用される際、構成パターンの中で最も多く利用されているサービスが Amazon EC2 ではないでしょうか。ご利用用途は多岐に渡ります。販売管理や生産管理、会計、給与計算などの業務システムや、社内ファイルサーバー、インターネットに公開するWebサイトやECサイトでもご利用いただいています。いわゆる、これまでのオンプレミスサーバーの代替になるクラウドサービスの代表格と言えます。OS は Linux や Windows 等の用意もあり、幅広くご利用いただくことができるクラウドサーバーです。今回は EC2 料金の見積もりのポイントをいくつかお伝えします。
まず、見積もり時に大きく関わる項目は以下の3点です。
① EC2 インスタンス利用料
② EBS 利用料
③ スナップショット or AMI 利用料
それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
① EC2 インスタンス利用料は、時間課金である EC2 インスタンス自体の料金です。主には EC2 のインスタンスタイプによって料金が異なります。インスタンスタイプは、仮想CPU数やメモリ容量の組み合わせにそれぞれ名前を付けているものなので、サーバースペックと読み替えていただいて大丈夫です。例えば、m5.large というインスタンスタイプは仮想CPUが 2 、メモリが 8 GB です。c5.2large というインスタンスタイプは仮想CPUが 8 、メモリが 16 GB になります。今では相当な数のインスタンスタイプが用意されているため、選ぶのも難しいかもしれませんが、基本は仮想CPU数とメモリ容量が関わるサーバースペックとお考えいただければ問題ありません。
また、インスタンス利用料は利用時間に沿った従量課金のプランの他にも、1年ないし3年間の長期利用契約することによる値引き価格で利用することも可能です。多少のサービスの差はありますが、Savings Plans やリザーブドインスタンスという名前での長期利用契約になります。
② EBS 利用料は、EC2 利用におけるディスク利用料金になります。RAID の設計は基本的に不要です。実効容量としてどれだけの容量が必要かを検討してください。EBS とは Amazon Elastic Block Store の略名です。EC2 を利用する際は、EBS を外付けハードディスクとしてアタッチすることで1台の物理サーバーのように使います。EBS も多くの種類が用意されており、多様なニーズに答えてくれます。基本は IOPS (Input/Output Per Second) の要件によって使い分けていただければ良いかと思います。IOPS の性能が必要な場合は、限界値はありますが IOPS を任意の値で設定できるプロビジョンド IOPS ボリュームを選択ください。また、現在ではデフォルトがハードディスク(HDD)ではなく SSD になっていますが、例えばファイルの保管のようなあまり IOPS 値が必要ではない要件の場合は、Cold HDD (sc1) ボリュームというHDDも用意されています。
③ スナップショット or AMI 利用料についてです。これはバックアップに関する費用とお考えください。スナップショット料金とは前述の EBS のバックアップデータの保存料金になります。AMI とは Amazon マシンイメージ の略になります。AMI はデータだけでなく、ソフトウェア構成(オペレーティングシステム、アプリケーションサーバー、アプリケーションなど)を記録したテンプレートとなります。AMI の中にディスクのバックアップデータであるスナップショットが含まれるイメージです。ディスク単位で復元したい場合はスナップショット、サーバーごと復元したい場合は AMI でバックアップを取得するといいでしょう。料金はスナップショットも AMI も同じです。また、スナップショットも AMI も差分バックアップとなりますので、例えば毎日 100 GB の EBS のバックアップを7日間取得したとしても 700 GB とはなりません。7日間で変更したディスク容量分のみが課金対象となります。
まずは以上の3点が EC2 利用時の見積もりポイントとなります。
AWS運用 〜見積の基本 ネットワーク編〜
AWS利用の見積もりは、サーバースペックやディスク容量を元に算出した EC2 の費用だけでは不足しています。この章では、ネットワークに関する料金についてお伝えしたいと思います。ネットワークに関する主な費用は以下の3点です。
① データ転送量
AWS は AWS のデータセンターからインターネットもしくは社内ネットワークに対してOUTしたデータ通信量に応じて従量課金が発生します。例えば AWS 上の EC2 に 1 GB のファイルを保存していた場合、クライアントPC側から100回ダウンロードすれば 1 GB ×100 で 100 GB のデータ転送量(OUT)となります。AWS 側へのアップロード(IN)については無料となりますので、先ほどの事例でも最初に 1 GB を EC2 にアップロードすることに費用は発生いたしません。どれだけデータ通信(OUT)が発生するのかは読みにくい部分ではありますが、想定のサイト訪問数や、システム利用者数、利用頻度からある程度は予測しておくことをオススメします。
② VPN 接続
AWS 上に構築したサーバー群に対して、自宅や社内、作業現場のようなオンプレミスネットワークからどのようにアクセスするのかによって費用が異なります。よく利用される方法として VPN 接続(AWS Site-to-Site VPN)と AWS Direct Connect がありますので、簡単にご紹介します。
まず、VPN 接続についてですが、VPN 接続料金が接続数に応じて発生します。例えば AWS に対して東京本社と大阪支社それぞれから1本ずつ VPN 接続をすると、数量は 2 になります。大阪支社からは東京本社経由で接続する場合は。AWS と東京間の1接続となります。
③AWS Direct Connect 接続
AWS Direct Connect は先ほどのインターネットを利用した VPN 接続(インターネットプロトコルセキュリティ(IPsec)VPN 接続)とは異なり、専用線での接続となります。AWS Direct Connect は専用のパートナーが存在しておりますので、専用回線費用については回線パートナー様にお問い合わせください。AWS 側で見積もりっておく必要があるのはポート利用料金です。容量とポート時間によって費用が変動します。容量とは、ネットワーク接続でデータを転送できる最大レートのことです。AWS Direct Connect 接続の容量は、メガビット/秒(Mbps)またはギガビット/秒(Gbps)で計測されます。ポート時間は、AWS Direct Connect ロケーション内で、AWS または AWS Direct Connect デリバリーパートナーのネットワーク機器で利用するためにポートがプロビジョニングされている時間を測定します。ポートをデータが通過していなくても、ポート時間の料金は発生します。ポート時間料金は、接続タイプ(専用またはホスト型)によって決まります。
AWS運用 〜見積の基本 その他重要ポイント〜
次の3点についても要検討ポイントです。
①ライセンス
Windows CAL や、SQL Server ライセンス、オラクル DBライセンスなど、オンプレミス環境で利用していた各種有償OS、ミドルウェア、アプリケーションのライセンスについてはベンダーに「AWS上で稼働可能か」を確認しておくことを推奨します。AWS の利用が EC2 等の IaaS だとしてもクラウド上での稼働可否は各ベンダーによってルールが様々です。また、ライセンスによって別途調達するのではなく AWS で調達できるものもあります。例えば Windows OS ライセンスについては EC2 の利用料金に含まれています。ライセンスのルールはベンダーによるため一番目に見えない部分かもしれません。利用スタートしてから追加費用が見つからないようにしておきましょう。
②運用費用
AWS はホストオペレーティングシステムと仮想化レイヤーから、サービスが運用されている施設の物理的なセキュリティに至るまでの要素を運用、管理、および制御をします。ユーザは、ゲストオペレーティングシステム(更新とセキュリティパッチを含む)、その他の関連アプリケーションソフトウェア、および AWS が提供するセキュリティグループファイアウォールの設定に対する責任と管理を担います。
AWS 側がユーザ側の運用負担を軽減してくれてはいますが、AWS コンソール(管理画面)での操作代行サービスや EC2 の24時間監視運用サービスのニーズはあります。AWS はセルフサービスなので、外部委託するのであれば費用を予算に組み入れておきましょう。
③為替
ドル建てではなく円建てでの支払いもできるようになりましたが、為替レートは一定ではありません。為替レートの見込みも見積もりには含んでおきましょう。
AWS運用のミスらない見積もり方
これまで AWS 運用費用の見積もり方をお伝えしてきました。上記の AWS 利用料金については AWS 料金計算ツールで大まかな利用料金を見積もることもできます。しかし、それでも不安が残る場合は、見積もり自体をクラウド提供ベンダーに依頼するのもひとつの手段です。株式会社ターン・アンド・フロンティアの提供する AWS 月額定額サービス「cloud link」等のベンダーが提供するサービスを選択のひとつとして検討されてみてはいかがでしょうか。
元記事発行日: 2022年04月20日、最終更新日: 2024年02月28日